はじめに |
当店は、江戸時代から会津で商いを続けております。当時は絹織物の問屋や雑穀の販売をしておりましたが、明治時代から菜種油を主とした製油業を営み、戦後になるとさらに胡麻油も搾油始めました。
現在食用油としている植物油は、合理化や省略化が進み、薬品等により化学処理を行い抽出されたものが大部分を占めており、食品本来の味や香りが失われつつあります。
このような中で当店の菜種油と胡麻油は、薬品や酸化防止剤など一切使用せず、昔からの「玉締め圧搾法」により搾油し、和紙筒により濾過方法によって抽出したものです。
また、原料の貯蔵所および作業所は一年を通して気温の変化の少ない土蔵を使用しております。
これからも「玉締め圧搾法」を守り続け、出来る限り自然でかつ安全性の高い油を作り続けて行きたいと思います。
店主 平出祐一 |
1)搾油方法の比較 |
下記の表は、一般油と玉締油との搾油方法の違いを比較したものです。
玉締め圧搾法には、昔ながらの人毛(髪)マット使用してます。また、搾油された油の精製法(水分や夾雑物の除去、脱臭、遊離脂肪酸の分離即ち脱酸等)については手すき和紙による自然分離(自然沈殿)という最も贅沢な濾過方法をとっています。
『一般油の場合』(酸化防止剤添加)
乾燥--粉砕・圧偏-抽出-原油-脱ガム・脱酸・脱色・脱臭-冷却-食用油
|(化学処理)
油粕
(抽出とは溶剤で油を溶かし化学的に油と粕を分離することです)
『玉締油の場合』(絞ったままの無添加)
乾燥(焙炒)-除塵-圧偏(粉砕)-蒸熱(蒸煮)-息抜き-圧搾(玉絞り)
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└油粕
-原油-濾過-食用油 |
2)油の効用 |
(1)エネルギー源としては、少量の1グラムで9キロカロリーの高エネルギーです。
(2)タンパク質やビタミンB1の節約作用があります。
(3)脂溶性ビタミンA、D、Eやカルシウムの吸収を促進します。
(4)体で作り出せない必須脂肪酸(リノール酸・リノレン酸)源として細胞膜の構成材料、血液中のコレステロール濃度調整、成長促進などの働きをしますので、一日のうちで必ず摂取しなければならない食品です。
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3)油の一日に必要量 |
植物油としては、一日大さじで1杯から2杯程度とします。
不足すると上述の働きが出来ませんが、とりすぎるとエネルギーの過剰摂取となり肥満や高脂血症などの成人病の原因になります。
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4)油の保存方法と賞味期間 |
油が悪くなるのは、空気中の酸素によって酸化されて、過酸化物質を作るからです。つまり空気にふれる面積が大きくなればなるほど酸化(腐敗)が進みますので、使用した油は小口ビンのような空気との接触が出来るだけ少ない器に入れて、太陽や蛍光灯などの光線が当たらず、風通しのより冷暗所に保存しておくと良いでしょう。また、開封した油は長くても3ヶ月位で召し上がっていただきたいと思いますし、開封しない油の賞味期間は、製造日から1年から2年を目安としています。
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5)上手な油の選び方 |
油はご飯や馬鈴薯などと同じく欠かすことが出来ないエネルギー源ですが、一日の必要量は大さじ1杯から2杯程度の少量です。このわずかな量に求められる価値観は私たちの体に大きな影響を与えます。
最近は不飽和脂肪酸の中でも特に「γ−リノレン酸」を多く含んだ荏胡麻やしそ油が話題となっています。当店でも以前は荏胡麻(じゅうねん)を搾油しており、主に「から傘」などの油紙に使用されていましたが、こうもり傘の普及とともに使用頻度が少なくなったので、現在は殆ど絞っていません。会津では「じゅうねん味噌」として擦って和え物や田楽にして食べています。
いづれにしましても、家庭での調理方法と、長期間使用した場合の化学的添加物による体に及ぼす弊害などを考慮して、『体に優しい油』を選ぶことが大切です。
つまり、天然で化学処理を行っていない油こそ、安心して使用出来る油と言えそうです。
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菜種油について |
(1)菜種の歴史
菜種は一年草のアブラナ科の植物で、秋に種を蒔き春に花が咲き7月頃には収穫し種を絞って油とします。菜種の原産は地中海で、菜種油は日本で最も古い油脂の原料といわれていますが、鎌倉時代初期頃に精進料理の発達とともに食用油として用いられました。また、神社などの灯明しても大量使われていました。江戸時代の会津の庶民の間では、8月13日の盆入りには、収穫された夏野菜を絞りたての菜種油で揚げて供物としました。また、11月25日は油締めの15日と言って雪深い会津ではこの日を油締めの最後としました。若妻は竹製の油壷に菜種油をいれて里帰りのおみやげに持ち帰ったと言われています。こうして、今から20年前までは製油業者が70件余り存在しており春の会津平野は黄金一面に埋め尽くされ7月に収穫され関西、関東方面へ出荷されていましたが、現在では当店を含めてわずか2件になってしまいました。
(2)菜種油の特性
菜種油も胡麻油と同じように不飽和脂肪酸の含有量が丁度良い割合で入っています。また、他の油に比べると香りや色素が強いのですがこれは、玉締法により搾油しているため天然の酸化防止物質トコフィノールと天然の色素クロロフィルやカロチンが油の中に溶け込んでいるためです。
(3)菜種油の調理
菜種油は「生」では食べられませんが、他の油に比べると熱安定が非常に良いので、てんぷらや炒めものに最適です。昔から豆腐屋さんで菜種油を使用しているのはこしが強く最後まで油揚げなどの仕上がりが良いからです。特に野菜のてんぷらや野菜の炒めものには、菜種油の色素が野菜の色素を一層引き出して色鮮やかにする上に脂溶性ビタミン(A・D・E)の吸収を促進しますのでぜひ使用したいものです。
(4)菜種油を使った料理
『菜種油の色彩を利用しましょう』
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料理名 |
材料 |
揚げ出し豆腐 |
しぼり豆腐にかたくりこをまぶして5分間おき菜種油で揚げます |
玉子焼き |
フライパンに油を敷き解き卵で玉子焼きを作ります。卵の黄身と菜種油の黄色が相乗効果です |
ピカタ |
魚に塩・コショウしてから小麦粉・溶き卵をつけて5分間おき、フライパンに油を敷き両面焼きます |
てんぷら
フライ |
特にいも類・野菜類のてんぷら・フライ。山菜類のてんぷらは塩で食べると美味です |
炒めもの |
いも類・野菜類に適しています |
手打ちうどん
餃子の皮
タコス |
打ち込み時に5%から10%の菜種油をいれると美味です |
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胡麻油について |
(1)胡麻の歴史
胡麻は、一年草の植物で高さ1メートル、花は筒状の淡紫白色です。
5月に種を蒔き8月から9月にかけて収穫し、種を絞って胡麻油とします。胡麻の原産はアフリカですが、縄文晩期には中国や朝鮮半島を経て日本に伝わり5穀の1つとして栽培されていました。胡麻の語源の由来は『伝来の麻』を意味しています。また、アラビアンナイトの中でも「OPEN・THESESAMI(開けごま)」と言う呪文にもありますように胡麻は難関を打開する即効ある魔力をもつ食べ物として古くから用いられてきました。鎌倉時代には精進料理の発達とともに食用油としての活用が目立ってきましたし、灯油としても炎が小さくゆれがなく油煙が少ないので白糸や絹類を扱う商家で使用されました。さらに江戸時代には『江戸前てんぷら』は胡麻油と称賛され続け、現在も東京の「天国」・「天金」さんは胡麻油の伝統を守り続けているということです。
(2)胡麻油の特性
植物油の中には多かれ少なかれ不飽和脂肪酸と言って動脈硬化防止や成長促進、細胞膜構成に役立つ物質が入っており、これが多くても過酸化物質をつくりやすいのですが、胡麻油は丁度良い含有量の上『セサモール』という酸化防止物質が含まれておりますので、植物油の中で最も優れた油と言えそうです。
(3)胡麻油の調理
戦後、進駐軍向けの目的で胡麻の香りを脱臭して胡麻サラダ油が作られましたが日本人には好まれなかったようです。やはり、胡麻の香りが生かされた調理法が望ましいと思われます。幸いに胡麻油は「生」でも食べることができるので幅広く利用出来ます。
(4)胡麻油を使った料理
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料理名 |
主な材料 |
主な用途 |
中華風めんつゆ |
スープ・・・カップ1
醤油・・・大さじ4
酒・ミリン・・・各大さじ2
胡麻油・・・大さじ2
(酢)・・・大さじ2 |
冷やし麺、野菜盛り合わせ |
合わせ酢 |
酢・・・大さじ4
醤油・ミリン・・・各大さじ2
胡麻油・芥子・・・各大さじ1 |
鉄板焼き
魚類の空揚げ・刺し身
海草類のドレッシング |
下味用つけ汁 |
胡麻油・・・大さじ1
醤油・酒・・・各大さじ2
(しょうが・すりごまなど) |
馬肉などの淡白なものはあらかじめ胡麻油をくぐらせてからつけ汁につける |
てんぷら
フライ |
胡麻油 |
特に魚やえびや貝などのてんぷらやフライに |
炒めもの |
胡麻油・塩・コショウ |
野菜類
海草(ひじき・あらめ等)
その他 |
煮物 |
醤油・ミリン・酒・胡麻油 |
煮汁がなくなったら胡麻油を少量いれる |
おひたし |
胡麻油 花かつを |
緑黄色野菜のおひたしに胡麻油を混ぜると脂溶性ビタミンの吸収が抜群 |
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★油のQ&A |
1.油はいつ頃から食べられるようになったのでしょうか?
世界では、古代ユダヤ人の指導者モーゼが書いた記録によるものが最も古いと言われ、当時はオリーブ油を灯油や食用油として利用していました。日本では、西暦200年頃、大陸より製油技術が伝わり、初めは魚油を土器に入れて灯油として利用していました。植物油が食用油として利用される用になったのは醍醐天皇(900年頃)時代と言われています。
ちなみにてんぷらの語源については江戸時代の天竺浪人がふらりと江戸に出て魚に小麦粉をつけて油で揚げて商売をはじめたのが(麩は小麦粉の意で、羅はうすくつける意)はじまりとか・・・・・・。
2.油はとりすぎると肥満になるのでしょうか?
人は体を動かす源となるエネルギーを糖質、蛋白質、脂肪の三大栄養素からとっています。糖質と蛋白質は1グラムで4キロカロリーのエネルギーとなりますが脂肪は1グラムで9キロカロリーですから多くとりすぎると肥満や高脂血症の引き金となります。
一日の摂取量は大匙1杯から2杯程度で、てんぷらなら3切れ、けんちんや炒め物なら大皿2杯程度、にしましょう。
3.どの油が体に一番いいのですか?
脂肪は種類によって体に及ぼす影響が違ってきます。動物性の脂肪(魚油は除く)は主に飽和脂肪酸とコレステロールを多く含んでおり、とりすぎるt動脈硬化等をおこしますが、植物性の油や魚油の脂肪は、主に不飽和脂肪酸を多く含んでおり動脈硬化や血栓症、または老化を防止します。
したがって、植物油や魚油を主に摂取するとよいでしょう。
4.油の酸化って何ですか?
植物油や魚油は不飽和脂肪酸が多いので健康食品としては優れていますが酸化(腐敗)も進みやすいのです。
例えば、魚やアザラシを食べるエスキモー人には心筋梗塞が少ないのは不飽和脂肪酸の一種であるエイコサペンタイン酸が血液の流れを良くするからと言われていますが、これらは熱に不安定で悪くなると過剰化脂質と言って不消化の油となり血管に溜まり動脈硬化や血栓症を起こします。つまり、日光に当たると酸化が進みますから干物や新鮮さに欠ける魚には注意しましょう。
したがって、植物油も同じです。サフラワー油やヒマワリ油は不飽和脂肪酸が多いので特に開封後は出来るだけ早い期間に(1ヶ月以内)に使用しましょう。またサラダ油はてんぷら油を熱処理したものですから、揚げ物用に使用すると酸化を速めますので、そのまま食べたり、マヨネーズやドレッシングに使用するのが効果的です。そのような中で胡麻油は油の王様と言えそうです。胡麻油は生でも揚げ物としてもどちらでも使用出来ます。また、この中にはセサモールと言う酸化防止物質が入っていますからこしが強く長持ちします。江戸時代の最高のてんぷらは「江戸前てんぷら」といい胡麻油で揚げたものです。家庭においては、胡麻油に大豆油や菜種油を調合して使用すると良いでしょう。
表−1 不飽和脂肪酸の含有量(ヨウ素値)
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種類 |
ヨウ素価 |
種類 |
ヨウ素価 |
サフラワー油 |
140−150 |
米ぬか油 |
99−108 |
ひまわり油 |
120−142 |
綿実油 |
88−121 |
魚油 |
140−172 |
オリーブ油 |
75−90 |
トウモロコシ油 |
117−123 |
ラード |
55−70 |
大豆油 |
114−138 |
ヘッド |
25−60 |
胡麻油 |
103−118 |
羊脂 |
31−41 |
菜種油 |
95−129 |
バター |
25-47 |
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カカオバター |
29−38 |
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